大判例

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福岡高等裁判所 昭和29年(う)1612号・昭29年(う)1611号 判決

判決理由〔抄録〕

原判決が挙示する関係証拠を綜合して考察すると、被告人が判示日時に運転した貨物自動車の積載量は四屯で、荷台の長さは約二米であったが、積荷は車の右側に十二尺旋盤機一台があり、その重量は約三・五屯で、重い部分が後方に位置し、荷台より後方に出ており、左側に六尺螺切機一台が積まれ、その重量は約〇・八屯であって、いずれも重心は上部にあって、不均衡な状況にあり、しかもそれ等の機械は単に麻ロープで縛られていたに過ぎないため、凹凸のある道路上を進行し、又は左右に方向を換えるとき、積荷の動揺により正常な運転に支障を来たす惧れがないでもない状態であったことが窺われる。そして本件事故発生現場において、被告人は全幅員十米四五の道路中央部の、当時幅員四米二〇であったアスファルト舗装面の左側を時速三五キロ乃至四〇キロの速度で東進していたのであって、前方二〇〇米の地点にリヤカーを牽いて道路中央より向って稍左寄りを歩行して来る者を認め、なおその後方から右寄りに他の貨物自動車が進行して来るのを目撃し、警笛を吹鳴したが、リヤカーは右に避けなかったため、該リヤカーとの距離約二〇米に近接して、急拠ハンドルを急角度に右に切り、続いて左に切ろうとした際、自動車が急激に方向を変換したことと、道路の舗装部分と非舗装部分に若干の高低があったことにより、前示のごとく重量の荷物で、重心が上部にあり且つ左右不均衡であった関係からして、積荷が激動し、道路右端で後車輪が滑るはづみで、前記旋盤機が振り落され、その反動で自動車は一廻転して道路より約一尺下の麦畑に、積荷、同乗者、諸共転落し、判示のごとく死傷者を出すに至った経緯が認められる。

而して自動車運転者は、貨物自動車を運転する場合には、その操縦自体に過誤なきを期するばかりでなく、安全な運転に支障なきよう車体の整備並びに積荷の調整について充分配慮し、以って人の生命、身体に対し危害を及ぼすごとき事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を負うものというべく、従ってその操縦が通常の事態においては一応適切であるごとく見えても、当該具体的な諸条件の下において適切でない場合、すなわち積荷の調整に万全を欠き、または特異な積荷状況にあることについて充分な認識を持ち、これに対応する措置が講ぜられたものと是認し得られない場合には、なお業務上の過失があるものと解するを相当とする。

ところで本件自動車の転落は、叙上のごとく、ひっきょう被告人が、本件自動車に積むべからざる過大な荷物を積載する無理を許容し、少くとも重量物の積載により極めて安定性を欠く状況にあることを看過して運転し、可成りの速度で進行しつつ急角度に方向を換えたことに起因するものであって、該運転措置は貨物自動車運転者としての注意義務を尽したものということができないことは、叙上説示したところにより自ら明らかであり、これにより判示井手勝を死に致らしめ、中島正芳外一名に傷害を負わしめたことについては、被告人に業務上の過失があったことを肯定せざるを得ない。

なるほど所論のように、本件荷物の積載は荷主の指図によってなされ、荷台には自動車運転助手のほかに荷主の使用人も乗車していたこと、またリヤカーを牽いて歩行して来た者に交通規則に違反した点があったことも窺われないでもないけれども、前説示のごとく被告人は自動車運転者として積荷状況について充分な認識を持ち、独自の判断に基いて安全な運転をなすべき義務がある以上、これ等のことは未だ被告人に業務上の過失があったことを排斥する事由となし得ないし、被告人の運転上の措置が所論のようにリヤカーを牽く者の生命、身体の危険を避ける為め已むことを得なかったものと認容すべき状況にあったことを認むべき資料は記録上見出し難く、記録を精査しても叙上認定を覆すに足りる証拠は存しない。

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